夜景館スタッフ日誌 二次創作万歳 忍者ブログ
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 ※注:このssは先日香月がみた夢(前回記事参照↓)を元にした話です。
 故に一部に死にネタととれる内容が含まれておりますので、その点御理解御了承の上お読み下さい。



 真白い花に溢れる祭壇の前に立ち、形の良い顎を上げる。
 視線の先には、持てる愛情全てを注いで育てた甥の写真。
 彼の両親は、彼が生まれて間もなく飛行機事故で他界した。
 超のつく未熟児として生まれ、飛行機に乗せることも叶わず親類宅に預けられた彼は、そのまま独りになったのだ。
 叔母の愛情を(多少歪んでいた所為もあるだろうが)疎んじつつ、それでも真っ直ぐな心根を持った若者に成長した彼。
 代々続いた政治家の家系に生まれたが故に寄せられる周囲の期待に応えるべく、着々とキャリアを積んで政界に足を踏み入れた彼に、こんな結末が来ようとは。

「金蝉・・・天蓬・・・捲簾・・・」

 政界の汚職を明らかにしようとして、逆に老獪の罠に陥った3人の名を呟く。
 根強い汚職は、故にその恩恵に与る者の数も多く、圧倒的な敵の数に、彼等の退路は断たれた。
 老獪の手の者によって葬られた上、汚職の証拠となるデータを手に入れた事を逆手に取り、汚職の黒幕に仕立てられてしまったのだ。
 一時は、金蝉の叔母であり、大臣の歴任経験もある観音にも非難が寄せられた。
 状況が変わったのは、機転を利かせた天蓬が、騒ぎが大きくなる直前かつての上司に詳細なデータの原本や汚職議員達の会話を録音したICレコーダー等を託していた事が判った時。
 そのお陰で汚職の実態が明らかとなり、3人の汚名は雪(そそ)がれた。
 こうして、3人は汚職議員とその秘書・会計士ではなく、正義を貫いた政治家と部下として、大規模な葬儀が行われることになったのだ。
 3人の大きな遺影の前に立った観音は、用意していた歌詞カードを持ち上げる。
 それを合図に、会場中の参列者も、同様にカードを手にした。


『Amazing grace! how sweet the sound
 That saved a wretch like me・・・』


 昔取った何とやら、50代とは思えない美声が、会場を満たす。
 数百人はいるであろう参列者による合唱が、伴奏程度にしか感じられない。
 歌いながら、観音は目の前の3人に語りかけていた。


 お前等のやった事は、決して無駄じゃなかった。
 後は、残された者達に託せればいい。
 お前達の新しい世界に、平和と、安寧を――








 5年後――


 空港の待合ロビーできょろきょろと辺りを見回す少年。
 と、

「おう猿!こっちだこっち!」

 その声に、猿呼ばわりされたにも拘らず、少年の顔が明るくなる。

「皆、久し振り!!」
「ぐほっ・・・お前なぁ、ちったぁ加減しろや。もう小学生じゃないんだ、昔みたく激突されたら俺、肋骨イっちまうって」
「あー・・・ワリ、捲兄ちゃ・・・」


 スパ――――ンッ


「っ痛ぇ~っ!!」
「この馬鹿猿っ!その名は使うなってあれ程念押ししただろうがっ!!
 俺達を本気で死に追いやる気か!?」
「ゴメン三蔵っ・・・だよな?」
「そう。そして僕が八戒」

 少年は、観音邸の執事長の孫息子だ。
 かつて兄のように遊んでくれた3人が他界したと聞き、打ちひしがれていたが、後日観音から言われたのだ。

『あいつ等は、この国を出て生き延びている。名前を変え、戸籍を偽造してだ。
 二度とこの地を踏むことは出来んが、お前がきちんと教育を受け終え、自立の目処が立てば、居所を教えてやるから会いに行けばいい』

 そうして今日、晴れて少年――悟空という名だ――は、懐かしい兄貴分達に会うという夢を叶えたのだ。

「へへっ、やっぱ名前変わっても、中身は変わんないのなっ」
「当たり前だ、そうそう変わってたまるか」
「あ、でも僕は禁煙に成功しましたよ。
 今は禁煙治療も発達していますからねぇ、便利な世の中になったもんです」
「変わりに三蔵サマが吸うようになったんだよな」
「喫煙習慣の有無は、個人特定の要素の一つにもなるからな。
 といっても日に3本程度で、それ以外は擬似煙草だが」
「まあ、それだけばっさり髪を切って、常に煙草を咥えているのを見れば、誰もあのお坊ちゃまと同一人物とは判りませんね」
「お前も髪切ったろうが」
「清潔感を前面に押し出したイメージチェンジです。目指すは『ひろみちお兄さん』で」
「「・・・(色々な方面に対してマズいだろそれは)・・・」」
「え、えーと、そういや捲・・・悟浄は髪伸ばしたんだなっ」
「おーよ、これだけパンクな格好すりゃ、禁煙なんかしなくても平気の平左よ」
「っていいますかむしろ増えてますし」
「肺がんになってとっとと死んでくれりゃ、こっちも清々するってもんだ」
「・・・シイタゲラレテる所も変わんないね」
「お猿ちゃんは俺様を馬鹿にしに来たのか~?」
「いたたたたっ!頭グリグリすんなって!皆に会いに来たに決まってんだろ!
 これからは一緒に暮らすって俺決めたんだから!就労ビザも取ったし、言葉も小母ちゃん(=観音)に特訓してもらったんだぜ!」

 きっぱりと言い放つその言葉に、3人の大人達の目が見開かれる。

「・・・それじゃ、まずは悟空の就職先確保ですかね」
「つーか冷蔵庫買わないと、10代のワカモノの胃袋はブラックホールだぜ?」
「ワイン倉庫を縮小して、食糧倉庫にする必要があるか・・・」

 新たな問題が浮上するが、皆一緒なら大丈夫。
 離れ離れになるのは、もう絶対嫌だから。


 どっとはらい。


 追記:先日の微死にネタから話を膨らませた結果、出来上がった『死にネタのようでそうでない話』。
 『あっち』の3人と『こっち』の3人じゃキャラが違いすぎて無理がありそうですが、そこはネタというか二次創作のアバウトさでお許しを。
 え、これが今月最後のss?(汗)

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