夜景館スタッフ日誌 なつやすみのおもいで(嘘) 忍者ブログ
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 以下のssは当館掲載作品(現代パラレル)の設定を用いております。
 パラレルに抵抗のある方は、自己責任で回避願います。
 大丈夫な方はどうぞ↓


 冷夏だ日照不足だと叫ばれていても、日中のコンクリートジャングルが暑い事に変わりはない。
 クールビズが世間に定着してきて、社内業務や通勤中ならノーネクタイもその一環とされているが、営業となれば話は別で。

「あっぢぃ・・・」

 炎天下の首都圏を、アイビーグループ会長直属ボディーガード・・・兼、特別営業課長(肩書上)の悟浄は、汗だくになりながら歩き回っていた。
 長い髪は後ろでまとめているが、それでも暑いものは暑い。
 ちなみに彼の仕事は決してホテル事業部門の営業などではない。それならばグループ本社が誇る営課部(別名:八戒専務親衛隊)が日夜各方面を廻っている。
 第一、悟浄のような人物では、取れる契約も御破算になりかねない。
 彼が扱っているのは、主にコンサートホール事業の契約、それもいわゆる芸能界方面のアーティストとの契約だ。
 元々、中高時代に雀荘やバンドクラブ、バイト(裏表共々)などで作ってきたコネクションから、その方面に顔が利くのを買われての人員配置なのだ。

「ちっくしょう、このクソ暑いのに、何が悲しゅうて年越イベントの話なんざしなきゃなんねぇっつーの」

 この世界は半年先取りが基本なので、文句を言っても仕方がないのだが。
 まあ、こちらは天下のアイビーグループなので、契約自体はむしろ優位だし、ちょっと頼めばアイドルのポスターやらカレンダーやら、山のように持たせてくれる。
 これを餌に女子社員やホステスを釣るのだから、有り難いといえば有り難い(ちなみにキャバとソープは会社から固く禁じられている)。
 だが、両手に大量の資料・販促品を抱えると、汗の量も半端でなくなる。
 というわけで、照り付ける太陽の下、死にそうな表情で駅へと向かう悟浄だった。
 と、ポケットの中から、携帯の着信音が聞こえてくる。

「ほいほい~、っと・・・ん?」

 液晶画面には、着信を表わす画像と、『八戒』の文字。

「今日は俺直帰な筈だぜ?まさか今から社に戻れってか?」

 とはいえ、無視することが許される筈もないので、渋々通話キーを押す。

「おう八戒?どーしたの?」
「急にすみません悟浄。今いいですか?」

 相変わらず、律儀が服着て歩いてるような奴だ。

「構わねぇよ。で、どしたの?」
「今ですね、会長と一緒に浦安にいるんですよ」
「三蔵と?」
「人前にいる時は会長、ですよ」

 ・・・本っ当に、律儀が服着て歩いてるような奴だ。

「会談や視察はほぼ終わりまして、この後夕食の席をリザーブしているんですよ。
 3人でも4人でもテーブルの数は変わらないですから、悟浄さえよければ一緒にどうかな、と・・・」
「え、マジ?」

 常にピッタリと三蔵――アイビーグループ会長にくっ付いている会長秘書の八戒は、仕事が遅くなれば夕食も一緒に摂ることが多い。
 んで、『3人でも4人でも』というからには、専属ボディーガードの悟空も一緒に違いない。
 この歳で野郎ばっか顔突き合わせて夕メシってのもどーかと思うが、視察などの際に奴らが取る食事の席は、例外なく同業者、つまり高級ホテルのレストランだ。
 会社のカネでいいモン食えるチャンスを、みすみす逃す理由はねぇ。

「行く行く。当然経費だよな?」
「そこはご心配なく」

 ほらやっぱり。
 経理関係についちゃ経理部の人間より厳しい奴さんがOKしたんだ、大手を振って食いに行けるってもんだ。

「で、何処なのよ」
「舞浜のRホテル トウキョウベイなんですが」

 つーたら、あの日本一有名な夢の国の横じゃん。
 そういや、集客力の強い施設の傍へのホテル建設がどーとか言ってたっけ。
 とはいっても提案は下からのもので、会長の方は若干難色を示している。
 そりゃそうだ、元々キャラクター系が好きじゃねぇからな、奴さんは。
 や、テーマパークの隣にホテルを建てる奴が皆キャラクター好きとは限らねぇが、毛嫌いしていたら多分難しいだろう。
 と、うっかり会長とその引っ付き虫2名が世界一有名な鼠のキャラクターのぬいぐるみを抱いたり、その耳をかたどった帽子をかぶる光景を想像してしまった。

 ・・・あ、有り得ねぇ・・・悟空はともかく、残り2名が凄まじく有り得ねぇ・・・!

 くらり、と眩暈を感じたが、電話の向こうの人物にそれが分かる筈もない。

「最上階のレストランで会長の名前を出していただければ、案内してもらえるよう手配します。
 なので、その大量のポスターやらグッズをどこかに預けて、ちゃっちゃと来て下さいね」
「げ。バレてたのね・・・」

 侮れねぇ奴。
 そこで電話を切り、舞浜へ行く算段をする。
 ま、ここは東京駅に行って、そこから京浜線に乗り換えるのが無難だな。
 そう考え、向かっていた駅から東京駅へ行き、一旦そこのコインロッカーへ荷物を預けると、JR京浜線に乗り換えた。
 ――が。

 う・・・浮いてる・・・(汗)

 アトラクションの並び時間が大幅に減る夕方からの入場を狙ってか、それとも今日はホテル泊まりで明日朝イチで入場するのか、この時間になっても舞浜行きの電車は、それと判るカップルや家族連れでひしめき合っていた。
 当然、服装はピクニック向けの軽装が多く、持ち物もキャラクターの絵やストラップなどジャラジャラ付いた物が目に付く。
 そんな中、上着を脱ぎ、ワイシャツの袖をまくってネクタイを緩めているとはいえ、背広姿というのは明らかに場違い過ぎる。
 しかも、悟浄の男気溢れる顔立ち(笑)と、染めたのでは有り得ない赤毛が、好意敵意に拘らず視線を集めてしまう。

 コレはアレか、何かのプレイか、そうなのか!?

 冷房のガンガン効いた電車の中、暑さとは異なる意味の汗でびっしょりと濡れる悟浄だった。




 舞浜のRホテル トウキョウベイ。
 肉体的な疲労より明らかに精神的なそれでクタクタになってレストランへ辿り着いた悟浄は、疲れきった表情で上司と親友・弟分の待つテーブルに合流した。

「悟浄、何ぐったりしてんだよ。ダッセェの」
「荷物はロッカーに預けて来てるんでしょう?夏バテですか?」
「ハ、ここまで来るだけで音を上げるたぁ、貴様の体力も大した事ねぇな」

 疲労困憊の悟浄に、容赦ない言葉が浴びせられる。
 俺ナンかしたか!?と思いながら、それでも一言言いたくて口を開いた。

「や、お宅等もこの格好でここの電車乗ったら俺みたくなるって!」

 それに対して返ってきたのは、

「有り得んな」
「そりゃ、プライベートならともかく、ねぇ」
「仕事の時はいつも車だし、背広着るのも仕事の時だけじゃん?」

 尤もといえば尤もだが、現場担当の悟浄からすればテーブルをひっくり返したくなるような台詞の数々。

 次はタクシー使って会社に請求してやる・・・!

 沙悟浄24歳。
 ブルジョワジーとの差を埋められる日は、多分、永久に来ない。



 どっとはらい。


追記:半実話(笑)。
仕事で関東に居を構える愚弟が、仕事帰りに愚兄から呼び出しを受けたんです。
曰く、家族で某ネズミーランドに来ているので、一緒に夕食を摂らないか、と。
住む地域も休みの取れる時期も全く異なる兄弟なので、やはりこういう時は誘いに乗ろう、と兄弟愛溢れる思いで向かったはいいが、360度何処向いてもカップルorファミリーで、背広姿の愚弟は凄まじく浮いていたそうです。
それにしても。
ランドのキャラクターの耳つき帽子。
多分ノリノリ(死語)でかぶる人に、他の連中がつき合わされ、約2名は怒りとやるせなさのもって行きようのない顔をしそうです。

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